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はじめに犬が登場する、この二つの昔話をご存じでしょうか?
ペット供養などという考えがなかったと思われる時代に、飼い犬の供養としてお葬式やお墓を建てた、という内容が伝えられています。
また、今とは少し違う人と犬との関係性も見えてきますよ。
今回は、少し不思議で悲しい昔話を交えながら、人と動物との関係や供養についてご紹介していきます。
『狩人と山犬(山犬と大蛇)』・『赤松の犬の墓』に共通するストーリーとは?
あらすじ
『狩人と山犬(山犬と大蛇)』は山梨県の昔話、『赤松の犬の墓』は徳島県の昔話ですが、この二つのお話はとてもよく似ています。
飼い主が愛犬を連れて狩りに出かけたところ、夜になって犬が急に騒ぎ立てます。普段とはあまりにも違う犬の様相に、飼い主は困惑し、自分を襲うつもりなのかと恐ろしくなって、なんと犬を殺してしまうのです。
ところがその直後、殺した犬の首が、飼い主を襲おうとしていた大蛇に食いつきます。犬はこの大蛇から飼い主を守るため、危険を知らせていたのです。
知らずに犬を殺してしまった飼い主はたいそう悲しみ、犬の遺体を連れ帰って供養する、という内容です。
『狩人と山犬(山犬と大蛇)』の紹介
http://www.hunterslog.net/dragonology/DS2/19424a.html
『赤松の犬の墓』の紹介
http://www.hunterslog.net/dragonology/DS2/36388a.html
飼い主の後悔
どちらのお話も、飼い犬を殺してしまったことをとても後悔します。
『狩人と山犬(山犬と大蛇)』では、飼い主は狩人をやめて行脚僧となり、お経を読みながら日本中を巡ったとか。
『赤松の犬の墓』でも犬を供養するため、遺体を持ち帰ろうとしています。
どちらのお話でも、騒ぎ立てる犬が怖くなりその命を奪ってしまいますが、それまでともに過ごしていた飼い犬が可愛くないわけはありません。
愛犬家からすると悲しい昔話ではありますが、飼い主に犬を想う気持ちがあったと思うと、ちょっと救われる気もしますね。
犬が命を奪われてしまうワケ
それではいったい、なぜ愛する犬の命を奪ってしまったのでしょうか?
じつは飼い主(猟師)と犬(山犬)のあいだには、ある契約が結ばれていたと言います。
『赤松の犬の墓』に「山犬の子は千匹になったら主人をとる」と記載があります。
解説にもあるとおり、猟で取った獲物が千匹になったら山犬が猟師の命を取る、という内容です。
つまり山犬を猟犬として使っている猟師には、いつか自分が殺されてしまうという強迫的な気持ちが宿っていたということですね。
また、山犬とはおそらくニホンオオカミだと考えられます。
急に騒ぎ立てて言うことを聞かなくなった山犬に、ついに自分を殺すつもりなのかと恐怖心を抱き、犬の命を奪ってしまったという訳です。
『狩人と山犬(山犬と大蛇)』・『赤松の犬の墓』にある犬の供養
動物を供養する昔話はめずらしい
それにしても、昔話では動物は人間に簡単に殺されてしまいますよね。
人の命も暮らしもままならないという時代、動物たちは今よりも謎めいていて、時には人の生活を脅かす存在だったのかもしれません。
有名な「ごんぎつね」でも、狐の「ごん」を殺してしまった主人公「兵十」が、銃を手から落とすというシーンで終わっています。
人に良いことをしたのに殺されてしまうという悲しい結末の昔話はたくさんありますが、人の後悔は書かれていても、その動物を供養すると言った内容は無いことが多いようです。
『狩人と山犬(山犬と大蛇)』・『赤松の犬の墓』では、どちらも犬を弔うためお葬式をしたり、お墓を建てたりしています。
飼い主の後悔と、犬を想う気持ちの強さが伺えますね。
赤松の犬の墓は訪れることができる
赤松の犬の墓は、徳島海部郡海陽町に実際にあります。
お墓自体は昭和に建てられたものですが、昔話はずっと地元の人に伝えられて、犬の墓は大切に守られてきたようです。
赤松の犬の墓に、飼い犬を連れてお参りをすると忠犬になるという言い伝えもあるそうです。自然豊かな場所ですから、ドライブがてら愛犬と訪れてみるのも良いかもしれませんね。
飼い主と犬の絆はいつの時代も変わらない
『狩人と山犬(山犬と大蛇)』・『赤松の犬の墓』はどちらも犬が飼い主を守ろうとして、飼い主に命を奪われてしまうという悲しいエピソードです。
ですが昔から、命を守ろうとするくらい犬が飼い主を慕っていたこと、生活のパートナーとして犬と暮らしていたことを知ることができますよね。
そして飼い主も犬を亡くしたことを悲しみ後悔して、犬をきちんと供養しています。
愛犬家の皆様にとってはつらい結末かもしれませんが、この昔話は、人と犬の絆がいつの時代も変わらないということを教えてくれる、貴重なお話かもしれませんね。
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